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たったふたりで、生きていく。 アナトリィ・プリスターフキン「コーカサスの金色の雲」



「器用だからあんな禿になるんだ!」「禿頭ってみんな抜け目ないんだ」(ページ不明)

第二次大戦末期の、モスクワに住む孤児たちのコーカサスへの集団移転の話。

孤児の双子、コーリカとサーシカがたくましく、彼らなりの正義をもっているところが好ましい。生きるためにいろいろなことをし、ドジもするけれど決して暗くはならない。

なぜ暗くならないのか。それは自分が不幸であることを知らないからだ。現代のわれわれから見れば悲惨の極致ではあっても、本人たちは置かれた環境で生き延びることだけを考えている。

レギーナ先生に、誕生日を作ってもらい、生まれて初めて祝ってもらったところにはグッと来る。その後の悲劇も含めて。

双子が移住させられたチェチェンの村は、つい先日まで人が住んでいたようなのに、誰もいなくなっている。ソ連がひた隠しにしてきた歴史だが、ナチスドイツにチェチェンの民が協力したと濡れ衣を着せ、ほとんど身一つで中央アジアにディアスポラされた結果である。

貨車の中にすし詰めにされたチェチェン人の子供たちが「水!水!」と叫ぶシーンがあるので、当初ロシアでは出版できなかったようだ。



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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「海の記憶」

あすかは僕の憧れだった

     ◇

「つかまえた」
 僕は屋上の隅に追いこまれていた。あすかは僕を囲いこむように、両手で左右の手すりを掴んでいる。ほとんど、抱きしめられる距離だった。
 あすかは背が高い。顔の位置は僕と変わらなかった。あすかとこれほど近づくのは初めてだった。
 汗とシャンプーの匂いが、薄く漂う。セーラー服の襟元で、首筋が白い。服の中まで眼が行きそうになり、慌てて視線を外す。
 あすかがじっと見ている。口元に、含むような微笑が浮かんでいた。全身が熱い。きっと、僕の気持ちは判ってしまっている。あすかはすべてを承知で、僕をおもちゃにしている。
 それで、よかった。
 あすかがすっと眼を閉じた。意味するところは、ひとつしかない。
 まさか、ともしかして、が入り乱れ、僕は動けなかった。
 決心をするにはあまりに短い時間で、あすかは眼を開いた。僕から離れ、いたずら少女のような笑顔を見せる。
「本気にした?」

     ◇

 彩は僕の欲望だった。

     ◇

 僕は、良くないことを考えている。
 抱きしめるまでなら、彩は怒らないと思っている。
 熟れた果実の香りが、ほのかに匂う。
 彩を、抱きしめたい。
 一歩、彩に近づく。彩は動かない。
 二歩、三歩、四歩。
 胸と胸がふれあうほどに近づいても、彩は道を開けようとしなかった。
 両手を、彩の腰に回して引き寄せた。柔らかな太めの肉から、甘く濃い香りが立ち昇る。
 彩は抵抗しなかった。肩が、大きくゆっくりと上下していた。
 僕はまだ、後悔できなかった。もっと。
 彩の唇が、軽く開いていた。普段通りなのかもしれない。
 僕はそこへ引かれるように、ゆっくりと顔を近づけていく。彩は身じろぎもしなかった。
 唇が、唇にふれた。

     ◇

 どこかで、壊れてしまった。あすかも、彩も、僕も。

     ◇

「あたしをぜんぶ見たの、信明が初めてだよ」
 羽根が落ちるように、あすかがふわりとマットから降りた。急いであすかに背を向け、指に力をこめて引き開ける。
 ふたつの鉄の戸板は、ひとつになって重い音をたてた。開かない。鍵がかけられている。
「協力してもらったんだ。邪魔が入らないようにね」
 あすかの声が、近づいていた。僕は必死に、扉を揺する。雨のグラウンドに、人の気配はなかった。
 顔の両側から、白い腕がすうっと伸び、僕の肩を抱きすくめる。引き締まった身体の、わずかに柔らかな部分が、背中に押しつけられた。
「抱いて……」

     ◇

 私は冬の雨に、下着までずぶ濡れになって、うずくまっていた。
 ぱちゃりと、湿った砂を踏む音がした。
 あすかさんが立っていた。もちろん、裸ではない。黒いカーディガンに黒いストッキングを履き、全身黒づくめだった。顔だけが白い。
「見てたでしょ」
 しいんと頭の中が、折れそうなほどに張りつめていく。答えることもできなかった。あすかさんは切れ長の眼を細め、最高の笑顔を浮かべた。
「信明ね、あたしの中に三回も出したんだよ」
 耳の奥で、ばきっと音がした。それはきっと、心が折れた音だった。
「好かん!」
 私は叫んでいた。あすかさんから逃げようと立とうとするが、頭がくらみ、脚が冷たさで痺れ、壁にもたれてしまう。
「好かん! 好かん!」
 両耳を押さえ、頭を振った。
 突然、氷のように冷たい手が額に当てられ、顔を上げられる。あすかさんの顔が間近にあった。
「教えてあげる」
 あすかさんの唇が、口をふさいだ。驚く間もなく、腐った海老のような生臭い唾液が、流しこまれてくる。あまりの臭いに、ぎゅっと眼を閉じた。
 ようやく離れてくれたとき、私との間にできた唾液の糸は、妙に粘り気があった。
「これ、信明の味だよ」

     ◇

 辛い。こんなに痛い心なんか、灰にしてしまいたい。

     ◇

「身体を、前に倒しなさい」
 スカートからようやく顔を出した山木先生は、口の周りをよだれまみれにして、命令した。
 私は机に上半身を預けた。眼の前の窓から、寂しい裏庭が見える。
 スカートをまくり上げられた。山木先生の舌が這ったところが、すうすうと冷える。
 尻肉を左右に開かれ、肛門が引きつれる。そこに、熱い蛭がすべりこんできた。ほじくるように、執拗にうねる。山木先生が、どうしてここまでこだわるのは判らなかった。
 裏庭には御船君と亀島君、そして信明君がいた。
 御船君が薄く笑って、信明君に話しかける。亀島君が泣き崩れた。信明君が、御船君の胸倉をつかんだ。
 御船君が、何を信明君に告げたのか、判る。
 真っ白になるほど、頭が痺れる。私は取り返しのつかないことをした。信明君に知られたことに、まだこれほど傷つく余地があった。
 御船君の頭突きで、信明君が倒れた。ひどい鼻血だった。信明君は泣いていた。
 胸がぎりぎりと痛い。信明君を泣かせたのは、私だ。乾いた雑巾を絞るように、涙が出そうになる。けれど、私には泣く資格もない。
 そのとき、山木先生が奥まで入ってきた。御船君のときより、痛くなかった。

     ◇

 鉄パイプを握る手に力が入る。
 僕は、角を曲がった。
 奥に、部屋がある。扉が開け放たれ、男の背中が見える。男は、浅黒い脚を両腕に抱えている。抱えられた肉付きのよい両足が、虚空に力なく揺れている。男の腰が荒々しく動くたび、柏手のような音がする。それに合わせて、犬の呼気が漏れる。
「出すぞ、彩」
 御船の声だった。
 走った。
 両手で鉄パイプをつかみ、振り上げ、御船の後頭部に叩きつけた。
 硬いものを砕いて、中にめり込む気味の悪い感触に、歓喜が突き抜けた。
 御船の身体が、左に傾き、そのまま倒れる。

     ◇

 僕たちは、どこに流れていくのだろう。残されたのは、海の記憶だけ。

 興味を持った方は、ここから。

 表紙イラストを描いた脳子さんのpixivはこちら。



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電子書籍デビュー 第1作目「海の記憶」

海の記憶

これを書き終えるのに1年半という過去最長の時間を要した。

ランサーズでコンペをして、上のような美麗な表紙を描いてもらった。

屋号を変えた。ちゃんと商売をするのにふさわしい名前にした。

いよいよ発売である。

今すぐ読めるのはパブーだけだが、いずれキンドルや他の販売サイトでも売り出される。

作者として保証する。面白くて、エロい。



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恋に本気で命を賭けた時代。 尾崎紅葉「金色夜叉」



来年の今月今夜にになつたならば、僕の涙で必ず月は曇らせてみせるから、月が……月が……月が……曇ったならば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のやうに泣いてゐると思つてくれ。(69ページ)

明治時代、病気の令嬢が「私が死んだら続きをお墓の前で読んでください」と遺言したほどの大ヒット作。

お宮を蹴る貫一像が有名だが、読んでみると貫一を憎からず思いつつ玉の輿を夢見る宮に対し、両想いを信じて疑わない貫一が哀れでならない。

捨てないでくれと泣いて頼む貫一を振ったあげく、結婚生活が思っていたよりつまらなかったからよりを戻したいと言う宮には、貫一でなくてもふざけるなと思う。

ただ、「私を許せないなら殺してください。殺してくれないなら自分で死にます」という修羅場に代表されるが、明治は恋愛に命をかけていた時代なのだとつくづく思う。現代はたかが恋愛になってしまっている。痴情のもつれで男を刺すとか、失恋して自殺するとか最近は聞かない。みんな淡白だ。

未完に終わった金色夜叉だが、あとがきではおしまいまでの構想があり、発狂して離縁された宮と、貧乏で苦しむ親友を貫一が助けるという展開らしい。ぜひ見てみたかった。というかこれで書きたい。



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テーマ : 読んだ本。
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物語を創る者ならあらゆる意味で共感。 東野圭吾「歪笑小説」



受賞しなくてよかった、これでもう何も迷わなくていい――(150ページ)

小説月刊誌の編集部と若手作家、作家志望の男たちの短篇集。小説月刊誌の舞台裏、家族と生活を新人賞に賭ける中年、自称
ハードボイルド作家だがコメディになってしまう男など……。

物語を自分で書いて少しでも世に問いたいと思う人なら、ときには頷き、ときには身につまされ、ときには主人公の決断に涙すること間違いなし。基本はタイトル通りコメディだが。



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長編の草稿完成

草稿が完成というのも言葉的にはおかしいが、ともかく例の死姦(以下略)が最後まで書き終わった。257枚だった。

この物語の結末は2年ほど前から考えていたのだが、アイデアは暖めすぎると腐るということを実感した。

話自体が陰惨でハッピーエンドなど考えてはいなかったが、もう少し余韻のある終わりかたもできたのではないかと思う。

ともかく、1ヶ月ほど寝かせてから7回推敲をする予定。どの賞でも門前払いを食うのがわかりきっているので、電子書籍で出す。

明日からは、470枚書いても終わらない奴隷少女成り上がり物語を今年中に終わらせる。



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極上のからくり箱。 伊坂幸太郎「ラッシュライフ」



「おまえの人生がどうなっても知らんぞ」
そこで豊田は苦笑した。肩に入っていた力がすっと抜けた。「いえ、すでに人生はどうにもなりません」
無意識に拳銃を取り出していた。周りも見ずに相手に拳銃を向ける。「構わないでください」(449ページ)


群像劇である。

それぞれのキャラの時間軸が少しづつずれているのがうまいと思った。

伊坂幸太郎の最も好感のもてる点は、伏線を必ず回収しきるというところ。今回は、それぞれの物語がそれぞれの伏線、断片となっていて、終盤ああこのことだったのかと判る。

おそらく、最初メインで考えたのはバラバラになった死体がくっつくと言うところだと思うが、それだけで話を進めるなら河原崎と京子の話だけでいい。豊田と黒澤の話が相関関係が深く、いうなればこのふた組の話を少しづつ重ねて「ラッシュライフ」ができている。

バラバラ死体が歩くミステリーと、リストラ親父の成長物語を非常に精緻に融合させていて、群像劇に挑戦したくなる。



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テーマ : 読んだ本。
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現代における鶴の恩返し。 越谷オサム「陽だまりの彼女」



焼酎を飲みながら読んで書いていたので、文章の乱れはご了承されたい。

半分ほど読んでヒロインの秘密を察したが、そのとおりだった。最初から伏線が惜しげも無く網羅されていて、 こんな書き方もあるのだと感心した。

率直に言って面白かった。まず、主人公とヒロインが魅力的である。なぜ魅力的なのかと言えば、好感の持てる思想と言動があるからだと思うし、それに加えてストーリー展開がこの設定において必然性のあるものだった。



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テーマ : 読んだ本。
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人間の持つ美質こそが戦争を招いている。 石川明人「戦争は人間的な営みである」



私たちは、「命こそすべて」という生き方をまったく完全に貫けるほどシンプルな存在でもないのだ。(69ページ)

大東亜戦争について否定したり肯定したりの本はよくあるが、これは「戦争」そのものを人間的な営みと規定している。

戦争はヘルシングの少佐みたいな戦争狂が始めるのではなく、「良く生きる」「正しく生きる」「美しく生きる」ことを人間が求めるからこそ、自分や仲間の命を危険にさらし、見ず知らずの人間を殺すことができるのだと言う。

また、現在の平和運動が第二次世界大戦のような形態の戦争を想定していることは的外れであるという。現在および未来についていかなる戦争が生起するかを考察したうえで、そういった戦争に対する反対を述べるためにも軍事や戦史を積極的に学ぶ必要があるとのこと。

よく出てくる甘っちょろい平和主義者に対しては、「人間を暴力なしで秩序を維持できる存在だと考えるのは、平和主義と言うよりはむしろセンチメンタルな思いあがりである」と厳しい。

また、物語を書く者としては「戦いたくないけれど、戦わなくてはいけないというシチュエーションが戦争に物語性を与える」というところに注目したい。

軍事そのものの本と言うより、戦争を哲学的に考察したものと言った方が近いと思う。文章的にはかなり砕けていて読みやすかった。大学の先輩と知って意外だった。



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創作できない環境というものは存在しない

今日から出張である。

家のパソコンからは離れるし、ノートパソコンも持ってはいないが、仕事の合間に創作をするためのものは忘れていない。

すなわち、ノートとボールペン。それから、リライト中の原稿。ノートに続きを書いたら、家に帰って打ち直す。

もしそんなものさえ持っていけない場所なら、頭で考えた話を覚えておく。

小学生のころ、適当なアドリブのホラ話で同級生を笑わせていたが、おそらくは人類の始めから物語はそのように創作されていたことだろう。

物語を作るには、頭脳以外は必要ではない。



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Author:原田 修明
小説を書くオッサン。
少なくとも、一生書こうとは決めた。

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