人の形を失った命は、命そのものであるが人間ではない。 北条民雄「北条民雄全集上巻」



死んでいますとも。あなたは人間じゃあないんです。あなたの苦悩や絶望、それが何処から来るか考えてみてください。一たび死んだ過去の人間を捜し求めているからではないでしょうか。(47ページ)

作者の北条民雄はハンセン病に罹り、東村山市の全生園という収容施設に隔離された。
その体験をもとに描かれたハンセン病患者たちの凄惨かつ無慈悲な描写は、自らが患者でなければどうしても筆先が鈍るだろう。
自分の身体が次第に感覚を失い、周囲にいる末期の患者たちに近づいていく恐怖によって、命とはいったい何なのかとことんまで考えつくした清華がこれらの作品になっている。

現代では生まれない作品だろうなと思う。
現代は、80年前より自由ではない。



面白かった、と思ったらランキングの応援をよろしくお願いします。
にほんブログ村 小説ブログへ

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

ふるしょうあや。

今まで書いた作品の中で、「ふるしょう あや」という人物は3人出てきて、いずれもメインヒロインかそれに匹敵する重要な役割を与えている。
海の記憶もそうだし、小さな、あの家にも出てくる。
餓獣に収録されている中編「綾」にも登場する。

年齢はいずれも中学生で、熊本弁をしゃべる。
理屈をつければ、熊本は僕の人生で重要な位置を占めるばしょであるし、中学生時代が感受性的に最も重大な事件のあったときだからである。

今書いている長編にも、「ふるしょう あや」が出てくる。
しかし25歳である。
結婚して苗字も変わってしまう。

僕は、心の中の何かを乗り超えたのかもしれない。



面白かった、と思ったらランキングの応援をよろしくお願いします。
にほんブログ村 小説ブログへ



テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

もっともドキドキした青春小説オールタイム・ベスト 黒井千次「春の道標」



 その美しいものを自然の形で眼に収めたい、という誘惑に彼は打ち克つことができなかった。棗は無言で上半身を起こした。と、ふくらみはまろやかな重みとなって胸に実った。スリップの線に指をかけて自分を確かめるように肌着の中を一度見下ろしてから、彼女はそれを明史に差し出した。掌に受けた棗を彼は注意深くスリップの脇から汲み出し、どこかにまだ子供っぽい表情の残っている薄赤い頂きに口唇を触れた。温かな肌の匂いが立ちのぼり、口に含んだものに慎み深い固さを押し返した。ボタンをはずしはじめてから今までのすべての棗がひっそりとそこに蹲っていた――(212ページ)


昭和25年の国分寺や府中付近を舞台にした青春小説。

新制高校2年の明史は、中学3年生の棗に一目惚れする。
その丁寧な描写がうずうずさせる。
それだけではなくて、引っ越した初恋の幼馴染と文通を続けていたりしている。

字体から相手の心持を読み取ったり、棗と携帯がなくても待ち合わせができたりと、高々60年前なのに、我々は自分の感応を使うことを忘れてしまったように思える。

冒頭の一節は、明史が誰もいない丘の上で自分のコートを敷いて棗を横たわらせ、イチャイチャしているところのクライマックスだが、今まで読んだどんな本より興奮した。
そのシーンを、ノート2ページほどに手書きで写した。
こんなこともめったにないことだ。

僕が書きたいと思うエロスに極めて近い。
行為が書かれていれば興奮するのではない。
僕がこの文章にこれほど興奮した理由はまだ分析していないが、する必要はないだろう。
この興奮が何らかのアウトプットに資することは間違いないのだから。

ここまでしておいて、棗は思いもよらない発言、ある意味で世間知らずで身勝手な、をする。
その理由が、まず60年後の現代では考えられないことである。
かつてローティーンは大人扱いされる一歩手前だったのだなあと思う。
今の70~80歳のひとはそういう時代を生きていた。
ほとんど異国のように感じる。

ともかく、いい作品です。


面白かった、と思ったらランキングの応援をよろしくお願いします。
にほんブログ村 小説ブログへ

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

実は長編を書き始めている。

一か月以上更新していなかった。

生活のリズムが狂っていて、子供が寝る前に帰ってこれるようになったのはいいものの、寝かしつけたら一緒に寝落ちして目が覚めたら朝ということが多くなっている。

とは言いながらも執筆はかろうじて続いていて、一週間何もしないというときはない程度の線は守っている。

というわけで長編を書き始めている。
構想自体はかなり以前からあって、ただ物語にならなかっただけである。
高校生男子が赤ちゃんと身体が入れ替わって欲望の限りを尽くす、という話でプロットも作って書き始めたが、プロットの段階ですさまじい愛憎劇になっていた。

マスコットの妖精的なキャラクターも作り、本格的に高校生向けのものを書こうと思っていたのだが、プロローグからすでにじめじめしている。

いわゆる高校生向けとか壮年向けとかいわれるものは、道具立てが違うだけでテーマは同じではないかと最近思う。
最新の小説でも、物語の型というのは千年前からできているというのと同じように。

妖精を人間にし、主人公を中年にすれば、電撃大賞ではなく小説宝石新人賞に送れるだろう。その逆もしかり。

ふわふわした構想の段階とは、雰囲気からなにから書き始めてみると全然ちがう。
おそらくは、それが物語の要請なのだろう。そしてたぶん、これに従うほうが満足度の高い作品になるだろう。

とにかく、書き続ける。


面白かった、と思ったらランキングの応援をよろしくお願いします。
にほんブログ村 小説ブログへ

テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

カウンター
プロフィール

原田 修明

Author:原田 修明
小説を書くオッサン。
少なくとも、一生書こうとは決めた。

リンク
発売作品
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
電子書籍の表紙依頼に使ってます。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ランキング