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もっともドキドキした青春小説オールタイム・ベスト 黒井千次「春の道標」



 その美しいものを自然の形で眼に収めたい、という誘惑に彼は打ち克つことができなかった。棗は無言で上半身を起こした。と、ふくらみはまろやかな重みとなって胸に実った。スリップの線に指をかけて自分を確かめるように肌着の中を一度見下ろしてから、彼女はそれを明史に差し出した。掌に受けた棗を彼は注意深くスリップの脇から汲み出し、どこかにまだ子供っぽい表情の残っている薄赤い頂きに口唇を触れた。温かな肌の匂いが立ちのぼり、口に含んだものに慎み深い固さを押し返した。ボタンをはずしはじめてから今までのすべての棗がひっそりとそこに蹲っていた――(212ページ)


昭和25年の国分寺や府中付近を舞台にした青春小説。

新制高校2年の明史は、中学3年生の棗に一目惚れする。
その丁寧な描写がうずうずさせる。
それだけではなくて、引っ越した初恋の幼馴染と文通を続けていたりしている。

字体から相手の心持を読み取ったり、棗と携帯がなくても待ち合わせができたりと、高々60年前なのに、我々は自分の感応を使うことを忘れてしまったように思える。

冒頭の一節は、明史が誰もいない丘の上で自分のコートを敷いて棗を横たわらせ、イチャイチャしているところのクライマックスだが、今まで読んだどんな本より興奮した。
そのシーンを、ノート2ページほどに手書きで写した。
こんなこともめったにないことだ。

僕が書きたいと思うエロスに極めて近い。
行為が書かれていれば興奮するのではない。
僕がこの文章にこれほど興奮した理由はまだ分析していないが、する必要はないだろう。
この興奮が何らかのアウトプットに資することは間違いないのだから。

ここまでしておいて、棗は思いもよらない発言、ある意味で世間知らずで身勝手な、をする。
その理由が、まず60年後の現代では考えられないことである。
かつてローティーンは大人扱いされる一歩手前だったのだなあと思う。
今の70~80歳のひとはそういう時代を生きていた。
ほとんど異国のように感じる。

ともかく、いい作品です。


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