狂気と正気は異世界ではなく同じ地平にある。 武田泰淳「富士」



くたばれ気ちがいども。気ちがいだからと言って、特別あつかいしてもらえると思ったら、とんでもない間違いだぞ。甘ったれるな。なれなれしくするな。もう理解なんか、してやらねえぞ。(550ページ)

昭和19年、精神病院で働く若き研修医が、患者たちに振り回されるうちに自らも狂気に侵食されていく。
冒頭の文は、混乱の巷と化した精神病院で、主人公の心の叫びもしくは本当の叫びである。

特に第10章「愛をもって接しなさい」は、主人公の子供であるイエスを妊娠したと信じている女の患者が、看護婦たちに説法をするうちに正気である看護婦たちも、何の抵抗もなく女と同じ狂気に賛同していくさまが素敵で、それに巻きこまれた主人公も、怒りのあまり狂気に足を踏み入れていく。

自閉症スペクトラムというように、狂気の程度はグラデーションであり、今は正気でもそのまま狂気に移行することは容易である。
正気と狂気の間に壁も谷もなく、普段から狂気は心の片隅に存在している。
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