異能の調香師が、築き上げた死体の山の上で天使となる。 パトリック・ジュースキント「香水」


そしてやおら相手の匂いを嗅ぎとった。娘の肩の汗、油くさい髪、性器からにおい立つ魚の匂い。途方もなく快い香りだった。娘の汗は海風のように初々しく、髪の生えぎわはクルミ油の匂いと似ていた。性器のあたりは百合の花束。肌は杏子の花の香りがした。(51ページ)

18世紀のフランスに生まれた邪悪な天才調香師、グルヌイユの一生。
久しぶりに、こんな小説を書いてみたいと思う本に出会った。

この本の最大の魅力は、登場人物のキャラクター造形にある。21世紀の日本人から見れば、邪悪か強欲または身勝手としか思えないキャラクターがほとんどだが、全員が必死に生きている。

登場して2ページで首をはねられるグルヌイユの母は、名前さえないがあまりにも鮮烈だ。実家からの仕送りの途絶えた孤児を職人に売るマダム・ガイヤールも罪の意識はない。

グルヌイユが関わったほとんどの人間は非業の最期を遂げるか望まない人生を送る。
何かを調合する小説、と言えば高野和明のジェノサイドもそうだが、薬の調合がコンピューター任せなのは読んでいていも楽しくない。グルヌイユが手作業で香水を作り出していく過程は、知的好奇心も刺激されるし、読んでいて面白い。

邪悪な天才グルヌイユは25人の美少女を使って(殺して)すべての人間をひざまずかせる究極の香水を作り出すが、その力が顕現した瞬間に、たったひとつの想いもかなわないことを知る。

――ありのままの自分を受け取ってもらいたい。自分に唯一まことの感情である憎悪に対して、しかるべき返答をもらいたい――

誰もがグルヌイユの「香り」にひれ伏すが、それはグルヌイユではなく「香り」にすぎない。グルヌイユがどんなに大衆を軽蔑し憎んでいても、誰も「香り」の下の素顔を見ることができない。

絶望したグルヌイユは、生まれ育ったパリにもどり、天使となって地上から消滅する。

この本に出会えてよかったと思える、最高の読書だった。



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